ステンレスの耐食性の比較

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ステンレスの耐食性は他の金属に比較しても高いことが知られていますが、何に対しての耐食性かによって選ぶべきステンレスの種類も変わってきます。というのも、あらゆる物質、環境に耐食性を持つ鉄鋼材料はほとんどないためです。

耐食性とは腐食に対する耐性のことであり、腐食のしにくさのことを言います。腐食しにくければ、腐食の結果発生する「腐食生成物」である「錆」も出にくいということになります。腐食を嫌うのは結局のところ、材料がぼろぼろに破壊されてしまったり、強度を損なったり、穴をあけてしまったり、接合している相手方の金属を腐食させてしまう等、いずれも材料破壊や強度低下、動作不良、機能不全につながるためです。したがって金属材料の選択を行う際は、どのような環境で用いることになっていて、どの程度の耐食性が求められる用途なのかを予め吟味しておく必要があります。

なお、ステンレスで見られる腐食には次のようなものがあるため、これらに対する耐性を、どのような環境で持たせるのかといった点を検討していくことになります。

  • 高温腐食
  • 酸やアルカリによる全面腐食
  • 隙間腐食
  • 孔食
  • 応力腐食割れ
  • 粒界応力腐食割れ
  • 粒界腐食
  • 微生物による腐食(鉄酸化細菌やマンガン酸化細菌)

以下、使用環境別にこうした腐食に適した耐食性をもつステンレスの種類を見ていきます。

大気中におけるステンレスの耐食性

大気中における耐食性についてはステンレスは無類の強さを発揮します。通常の大気中に使われているステンレスで全体が錆で覆われているという状態はあまり見ないかと思いますが、海辺の近く、沿岸部、海岸からの潮風や海塩粒子の影響のあるところで使用する場合には注意を要します。

ステンレスの弱点のひとつが塩化物、つまり海の塩などが付着するとその部分に孔食(こうしょく)と呼ばれる小さな穴上の腐食が発生する点が挙げられます。また、隙間腐食と呼ばれる腐食は、微細なごみ等が付着し、そのごみとステンレス表面との隙間(数十ミクロン程度)に酸素が供給されず、ステンレスの錆を防ぐ機構である不動態皮膜と呼ばれる保護膜が酸素不足でうまく作られないことで腐食が進行していきます。

これらを防ぐためには海塩粒子を避けたり、ごみを定期的に除去する、設計上、酸素供給に難があるような隙間ができないような部品や構造物にする、といった対策がありますが、海外近くで用いるステンレスで長期間の腐食や錆を防ぎたい場合、クロムとモリブデンを多く含有するステンレスや、耐孔食指数の高いステンレスを選ぶ工夫も必要です。

もっともデータでは10年近くの海岸での曝露試験では、孔食が発生しても、年々その進行は遅くなっていくという結果もあります。進行を遅くする、つまり防錆の効果を高める元素はクロムとモリブデン、窒素などであるため、コストの面から高価なニッケルを含むステンレスを忌避するという選択肢もあります。

例えば、以下のようなステンレスを使うことで、海浜環境であっても、耐食性を維持することができる可能性があります。

  • SUS430にクロム添加量を増やし、胴やモリブデンをさらに添加したタイプ
  • SUS304にモリブデン、窒素を添加し、硫化物を低減したタイプ
  • 沿岸部ではSUS316
  • より厳しい海浜環境であれば、SUS312L、SUS445J1、SUS445J2

同じ大気中といえども、工業地帯、田園環境、海浜環境それぞれで求められる耐食性に異なる点に留意する必要があり、堆積物や微細なごみ等が常時流されない環境で使う場合はより腐食が進みやすくなります。

一般に、海浜環境での海塩粒子が付着することを前提にした場合、SUS445以上のステンレスが推奨されます。SUS316は、SUS304より耐食性に優れるものの、堆積物やごみが付着して雨水で流されない環境で使う場合、適用に不安が残ります。

下記、右に行くほど海浜環境での耐食性は落ちていきます。

SUS312L>SUS445J1, SUS445J2>SUS316>SUS304

海水におけるステンレスの耐食性

海水や塩化物溶液というのは、耐食性やさびの強さを売りにしているステンレスにとって大敵の一つともいえる環境です。前述のとおり、海岸や沿岸部などで潮風、海塩粒子にさらされると孔食などの腐食が発生すると述べたとおり、通常のステンレスでは常時海水に触れる状況の環境は耐食性が損なわれていき、さらに、海水でふじつぼや貝類等が付着することで、隙間腐食もより発生しやすくなります。こうしたことから、海水環境では、孔食よりもさきに隙間腐食が起きることが知られており、海水での隙間腐食に耐えうるステンレスを選ぶことが肝要です。

同じ海水であっても、海水が常時流れている流水環境なのか、ほとんど流れのない環境なのか、また閉鎖された環境なのか等によっても腐食の度合いは変わってきます。

一般に、孔食に対する強さは孔食指数として以下の成分の合計値で見ることができます。

Cr + 3.3Mo + 16N

また、隙間腐食に対する強さは、以下の成分の合計値で見ることができます。

Cr + 4.1Mo + 27N

耐海水ステンレス鋼としては、孔食指数が35〜40以上のものが挙げられます。特に孔食指数が40を超えるものはスーパーステンレスとも呼ばれます。ただ、下表を見るとわかるとおり、孔食指数35を超えるステンレスは限られています。SUS312Lが候補となる所以です。

代表的なステンレスの耐孔食指数の一覧
ステンレスの種類 耐孔食指数
SUS304 18
SUS304L 18
SUS304N1 19.6
SUS304N2 20.4
SUS316 26.3
SUS317 27.9
SUS312L 41.36
SUS329J1 26.3
SUS329J4L 33.53
SUS430 16

水道水や温水、真水などに対するステンレスの耐食性

ステンレスの弱点は塩化物であるため、この濃度がどの程度、対象となる水に含まれているかという点が重要となります。一般の水道水は塩素で殺菌しているので、塩化物イオンが100ppm前後までは含まれていることがポイントです。このため、海水ほどではないにしろ、孔食や隙間腐食が発生することがあります。特に塩素の影響を受けやすい箇所、受水槽の気相部などではSUS444以上の耐食性をもつステンレスの使用が推奨されています。こうした部位には、SUS329J4Lといった高耐食ステンレスも適しています。

温水を扱う環境の場合、塩素の影響が小さくなる反面、温度の影響で応力腐食割れが発生する可能性があるため、こちらも注意を要します。SUS444以上の耐食性をもつステンレスやSUS304にSiを添加することで応力腐食割れを改善したSUS315J1といったステンレスも検討候補となります。

酸に対するステンレスの耐食性

ステンレスの耐酸性ともいえる性能が問われる局面ですが、酸にも複数のものがあるため、種類ごとに見ていく必要があります。

硝酸に対するステンレスの耐酸性

まず、硝酸については酸化性の酸であるため、ステンレス全般が耐性を持ちますが、硝酸プラントといった場所で使われるのはSUS304Lです。これはSUS304の炭素を減らして粒界腐食に対する耐性を高めたものですが、硝酸の中での腐食現象は溶接の際に過熱した箇所におきる粒界腐食であるため、理に適った選択といえます。

ただし、高濃度の硝酸や高温の硝酸のなかでは、溶接部位にかかわりなく、粒界腐食が発生します。このため、高クロムや高シリコン型のステンレスや、ニオブを添加したものが検討されることがあります。たとえば、沸点近くの高温硝酸であれば、Nb添加型のSUS347が候補材料となります。

高濃度の硝酸であれば、極低炭素・高クロム型のステンレス(極低C-25Cr-20Ni-Nb等)や、高シリコン型のステンレス(17Cr-14Ni-4Si、SUS315J2など)、ステンレス以外の金属材料であるチタンやジルコニウムといった素材も検討の俎上にあがります。

ステンレスの種類ごとの耐硝酸性
ステンレスの種類 耐硝酸性
SUS304L 濃度40%以下の硝酸に対しては常圧沸点まで、40から70%の硝酸に対しては80℃まで、70から90%の硝酸に対しては50℃まで耐食性を発揮する。ただし、これら条件から外れる40%以上の沸点硝酸や、常温以上の98%硝酸には腐食する。40から70%の中濃度における高温硝酸では粒界腐食が発生しやすい。
SUS304ULC SUS304よりさらに炭素量を低減した極低炭素ステンレス鋼。このタイプは硝酸中での耐粒界腐食性が向上することが知られている。
SUS310ULC SUS310Sよりもさらに炭素量を低減した極低炭素タイプ。中高濃度の沸点硝酸中で有効。ただし、長期使用には難あり。
高クロム二相ステンレス(極低炭素) 27Cr-8Ni-0.1Nの組成を持つタイプは耐硝酸性に優れる。
SUSXM15J1の極低C、安定化元素添加 98%硝酸に対してSi添加が有効。極低炭素型にし、ニオブやチタンといった安定化元素を添加した高Si型の耐熱ステンレス鋼は、濃硝酸の耐食性に効果があることがわかっている。

硫酸に対するステンレスの耐酸性

ステンレスは硫酸に対しては濃度によって異なる反応を示します。低濃度と、高濃度の硫酸に対しては耐食性をもつ示す鋼種がある一方、中濃度の硫酸では腐食速度がはやくなることが指摘されています。全濃度域の硫酸に対しては、ステンレスではなくニッケル合金が使われるという選択肢もあります。

高クロム・モリブデン添加型のステンレス(SUS447J1等)が良好な耐食性を持つことが知られています。

耐酸化性に強いSUS310Sも検討候補の一つといえますが、こちらは高クロム、高ニッケル型のステンレスでモリブデンが添加されていません。ほか、SUS329J4L、SUS329J3L、SUS445J2といったステンレスも、高Cr-Mo添加タイプのステンレスとなります。

耐硫酸性を向上させる合金元素としては、クロム(Cr)の他、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)等があり、

耐硫酸性が期待できるステンレスの種類
合金元素タイプ ステンレスの種類例
Mo添加鋼 SUS316, SUS316L, SUS316LN, SUS317, SUS317L, SUS317LN, SUS317J1, SUS317J2, SUS836L
Mo-Cu複合添加鋼 SUS316J1, SUS316J1L, SUS890L, SUS312L
硫酸に耐食性のあるステンレスの種類(侵食度≦0.125mm/yの場合)
温度(℃) 硫酸濃度 適したステンレスの種類
室温 0.5%以下、90%以上 SUS304, SUS321, SUS347
5%以下、90%以上 SUS309, SUS310, SUS446
20%以下、90%以上 SUS316, SUS317
66℃以下 0.1%以下、95%以上 SUS304, SUS321, SUS347
1%以下、95%以上 SUS309, SUS310, SUS446
5%以下、95%以上 SUS316, SUS317
93℃ 0.01%以下 SUS309, SUS310, SUS446
0.5%以下 SUS316, SUS317

塩酸に対するステンレスの耐酸性

塩酸は還元性の強酸であるため、ステンレスにとっては大敵のひとつです。ステンレスの耐食性を維持するために必要となる表面の不動態皮膜が塩酸中では生成されづらく、不動態皮膜が破壊されやすいため、ごく薄い濃度の塩酸であればステンレスでも耐性があることが知られますが、ニッケル合金が使われるケースが散見されます。塩酸中でのステンレス使用はかなり厳しいものといえます。塩酸を扱う設備の材料としては使うことはまずできません。

SUS304で見た場合、不動態皮膜を維持し、耐食性を持つことができるのでは常温での塩酸のうち、濃度が約0.5%から1%以下とされます。

ニッケルやモリブデンをより多く含むステンレスであればSUS304よりも塩酸に対して腐食度が小さくなる傾向はあります。

りん酸に対するステンレスの耐酸性

りん酸については硫酸に似た腐食性を持つものの、それよりは弱いため、ステンレス全般、耐食性を持ち、なかでもSUS316が約80℃以下の溶液中では全濃度で耐性をもつとされます。また、硫酸ほどのレベルのステンレスは必要ないとされますが、SUS317以上の高クロム・ニッケル型のステンレスでモリブデンが添加されたものが適しているとされます。

ただし、りん酸の場合、中に含有する不純物の種類や度合いによって腐食速度に大きな違いがあることが指摘されています。粗りん酸などを使う用途では注意を要します。

  • SUS316L
  • SUS317L
  • SUS890L
  • SUS312L
  • SUS836L

有機酸、酢酸に対するステンレスの耐酸性

こちらも高クロム・ニッケル・モリブデン添加型のステンレスが耐食性を示しますので、濃度に応じてりん酸や硫酸に適したステンレスが検討候補となります。

例えば酢酸は樹脂・繊維・薬品など工業用途ならびに食品分野でも広く使われますが、純酢酸であればSUS304は80℃以下の溶液中、どのような濃度でも耐えることができます。ただ、沸点となると腐食することが指摘されています。

なお、一般に食品として使う「お酢」は酢酸濃度4〜5%前後となります。

下記の表は、沸点酢酸での代表的な耐食性を持つステンレスごとの腐食度を比較したものです。成分中、クロムやモリブデンの量が多い鋼種が顕著な耐酢酸性に影響していることがわかります。数字の単位はmm/yを意味しますので、SUS317J2にいたっては、80%の沸点酢酸にも腐食しないことがわかります。

酢酸におけるステンレス各種の腐食度の比較表(酢酸は沸点、24hで試験)
酢酸濃度 SUS304 SUS316 SUS317L SUS317J2
40% 0.70 0 0 0
60% 2.25 0.05 0 0
80% 2.35 0.20 0.14 0
100% 0.43 0.08 0.01 0.08

尿素に対するステンレスの耐食性

工業用途等、製造設備での使用の場合、SUS316LやSUS329J4Lが検討候補となります。

アルカリに対するステンレスの耐食性

ステンレスの場合、薄いアルカリであれば問題のない耐食性を維持しますが、高濃度アルカリや高温のアルカリでは腐食の懸念があります。一般に、工業用途のアルカリ、たとえば苛性ソーダ等が触れる化学プラント等の環境では、ニッケル合金の使用が検討されます。

苛性ソーダに対するステンレスの耐性は、たとえばSUS304、SUS316では濃度50%以下、80℃以下までであれば耐えられるとされますが、これ以上になると全面腐食にいたり、材料としては使うことができません。苛性カリについてもステンレス対する腐食については苛性ソーダと同等と考えられています。

弱アルカリのものであれば、腐食性が弱いため、SUS304でも十分な耐食性を持つことが知られています。

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